当ブログの初めてのエントリーです。最初のテーマとしてドル円の長期的な方向性を考えてみたいと思います。
なぜドル円に注目するのか
ドル円=145円前後の非常に高い水準が続いていますが
- これは日本の弱いファンダメンタルズ、とりわけ経常収支の悪化を反映した長期的、構造的なもの。暫く続く
- アメリカの超好景気、高インフレ、高金利による一時的なもの
という二つの見方があります。
今後数年でリターンを取ることを考えた場合、米国資産 or 日本資産のどちらに投資するかの判断に大きく影響するので、ドル円の決定要因と現在の水準について考えてみます。
為替の決定要因:定説はない
「投資家のための 金融マーケット予測ハンドブック」によると、為替の決定メカニズムには確固たる定説がないそう。が、一般的に注目される要因は
- 国際収支統計(フロー)
- 二国間の物価に着目する「購買力平価説」
- 二国間の金利差
辺りだと思います。以下、一つづつ見ていきます。
国際収支統計
国際収支統計に現れる
- 財・サービスの貿易
- 事業・実物資産への直接投資
- 直接投資からのリターンである利子・配当の還流
- 国境をまたいだ債券・株式への投資
- 先物・オプションなどの金融商品の売買
などのフローに着目するアプローチです。早速ですがデータを参照してみます。
第一次所得収支(紫)=対外直接投資(海外子会社など)から上がってくる利子や配当です。全てのフローの合計が円安/円高のどちらに作用するか示すためにグレーの合計線を足しましたが、この合計には第一次所得収支は含めていません。海外子会社の利子・配当の大半は現地で再投資され、日本円に交換されることはないからです。
結果を見ると
- 貿易・サービス収支(薄いオレンジ)は2005年辺りから徐々に悪化(円安圧力)
- 対外直接投資(紫)は徐々に増加(円安圧力)
- 第一次所得収支(青紫)は徐々に増加(為替に中立)
と年々円安圧力は高まっています。
ところが実際のドル円は、期間全体を通してみると殆どの期間で110円-120円を中心にした狭い範囲に収まっています。140円を超えたり80円を割ることもありますが、全体的に円安方向に動いているとは言えません。
これはドル円を説明するのに適切ではないです。
購買力平価説
「二つの通貨の交換比率は、二国間の物価が均衡する水準に収斂するはず」という考え方に基づくアプローチ。有名なビッグマック指数もこれ。
結果:
- 常に消費者物価指数>企業物価指数>輸出物価指数ベースの理論レートになっている。国際競争にさらされる輸出品と、競合が国内にしかない製品の競争環境の違いが現れていると思われる
- どの物価指数も、長期的には円高方向の圧力として作用している。これは日本のインフレ率が、一貫的に米国のそれよりも低いから
- ただし2010年以降、日本の低インフレ傾向は弱まっている
- 実勢のドル円(赤)は、おおむねこの理論によるレートの範囲内で推移しており、説明力が高い
- 80年代後半〜90年代中盤には日米貿易戦争に注目が集まり、ドル円は輸出物価ベースの理論価格にぴったり連動した
- 2000年以降は、アメリカの貿易戦争の相手が中国に変わり、ドル円はこのモデルの下限である輸出物価ベースの理論レートから離れて円安方向にシフトした
- 特にコロナ禍以降の円安は、購買力平価の想定レンジを大きく逸脱している
購買力平価説のドル円に対する説明力は高く(特に長期的な傾向)、ドル円の当事者である二国間の貿易戦争に注目が集まった90年前後の時期にはかなり特徴的な動きとなっています。しかし、2000年以降はやや説明力が弱っています。
特にコロナ禍、世界的なインフレ高進が進んだ2021年以降は、購買力平価のレンジから大きくドル高側に外れています。これは恐らく、インフレ退治のために米Fedがが実施した利上げの影響だと思いますので、次に金利差とドル円を確かめてみます。
日米金利差
早速データを見てみます。金利は名目値、年限は長期金利の代表である10年を使います。
- 2000年-2005年: 金利差の割に円高方向に
- 2020年以降: 金利差の割にドル高方向に
やや外れているのに気付きます(下図参照)。2000年代のずれは
- US: ITバブル+金融引き締め
- JP: 日本の金融危機の余波, Japan Passing
の可能性が高いです。
これらを除くとかなり説明力が高いです。2023年8月現在の値は図の通りで、かなりの高金利差+ドル高円安の位置にあります。
まとめ
- ドル円の実勢を説明する力が強いのは、購買力平価と金利差
- 2023年8月現在のドル円は、購買力平価モデルの説明からは大きくドル高円安側に外れいてる
- この振れの原因は恐らく、高い日米金利差
今後の読み
2023年8月現在の日米金利差は、世界的なインフレに対する両国の中央銀行のスタンスの違いによるところが大きいですが、これは数年以内のレンジであれば縮まって行く可能性が高いと思います。理由は
- 国際的な商品価格は既に落ち着いており、インフレが世界に波及してゆく状況は一旦終わった
- 米国は、ゆっくりではあるが国内のインフレ抑制に成功しつつある
- その間、日銀は円安→輸入品インフレ→消費減+国内へのインフレ波及という圧力にさらされ続ける
- したがって現下はドル安円高方向の圧力がかかっている
と考えるからです。
今日は以上です。気になる点があったら、お気軽にコメントをお寄せください。
0 件のコメント:
コメントを投稿